ジオンの悪逆非道さを表すエピソードとして、コロニー落としと連邦サイドのコロニーを毒ガスで攻撃して、大量虐殺したという話が、Xで盛り上がっていた。
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コロニー落としは1基だけで、毒ガス攻撃をしたのはそのコロニーだけという認識をしていた自分はそんな設定の映像作品あったっけ?と不思議に思い、そもそものコロニー落としや毒ガス攻撃の設定の変遷について追いかけてみた。
ファースト本編映像(1979年)
コロニーの内側が爆発する描写とムサイやザクの背景でコロニーが落ちていき、都市に1基のコロニーが落ちる描写のみで、毒ガス描写はもちろんない。映像だけで判断すると、意図的にコロニーが落とされたのでなく、連邦とジオンの戦闘に巻き込まれたコロニーが落ちてしまったと見える。
なお「コロニー落とし」という言葉も本編では出てこない。(ファースト小説にはないのでセンチュリー初出?)
ファースト小説版1(1979年)
「PART4 ニュータイプ」で連邦サイドのコロニー多数に毒ガス(GGガスという表記。ZガンダムではこれがG3ガスとなる)攻撃をして、その後コロニー落としをしたという記述がある。複数の地球の都市に向けてコロニー落としが行われたと読める記述もある。毒ガス攻撃はてっきり後付け設定だと思っていたが、富野氏の構想の中にあった。



たぶんこの辺りで富野小説での描写を知り、軌道修正を図ったか。だが残念ながらこの方が書いているような「コロニー落とし作戦」という名称は1979年ソノラマ文庫版にはない。原典に当たらず、のちに書き換えられた版の電子書籍のネット引用を鵜呑みにして「ガンダム民俗学の世界だが」とは片腹痛い。 https://t.co/GpjmhPSTPh pic.twitter.com/4f7MehRm2t
— 京洛ひぐらし (@kyorakuhigurasi) 2025年2月16日
ムック『ガンダムセンチュリー』(1981年)
コロニー落としが「ブリティッシュ作戦」と命名される。落としたコロニーはサイド2の「アイランド・イフィッシュ」の1基だけと特定される。毒ガス攻撃の話は出てこない。センチュリーはコロニー落としでの被害を細かく設定したのが肝だが、安彦氏によれば、コロニーが落ちた場所はマンハッタンのつもりで描いていたが、センチュリーでシドニーとなった。
センチュリーが作られた当時、てっきり小説版は出てないのかと思ったら、最初のソノラマ文庫版が発行されたのは放映中の1979年11月なので、センチュリーは小説版の設定はあくまで映像とは別物として採用しなかったようだ。
機動戦士ガンダム THE ORIGIN展 安彦良和トークイベント
— シャア専用ブログ (@Char_Tweet) 2022年2月19日
・安彦 コロニー落とし地点がマンハッタンからシドニーになった様に、ガンダムにはそういう(本編スタッフ外の)勝手な後付け設定がある。ジオンマークもそうですよ。未だに制作者を知らない。#THE_ORIGIN
「『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』上映&安彦良和先生トークイベント」2月19日開催【昼の部】アフタートークレポート | GUNDAM.INFO
そして、コロニーが落下するシーンについて、安彦氏は「シドニーに落とすというのも誰かが考えたんでしょうね。僕が『機動戦士ガンダム』を作った時は、マンハッタンのつもりで描いていたけれど」と、意外な思いを告白。さらに、「オーストラリアに落ちたとして、全人口が半分死ぬか?と思ったので、天変地異などが起きたということにしました。結構苦労しているんです」と、設定を守るための裏話を語った。
漫画 『MS戦記』近藤和久(1984年)
コミックボンボンで連載していたガンダム外伝の漫画。ビジュアルとして初めて毒ガス攻撃が出てきた作品。セリフを見るとコロニーは複数落としたとも読める。 最初に毒ガス攻撃が出た作品として、小説版でなく『MS戦記』を挙げる人が多かったのだが、ビジュアル化の強さを感じるエピソードであり、コミックボンボンという児童誌で、こんなハードな描写があったら、子供心に強く記憶が残るのも当然だろう。




TVアニメ『Zガンダム』本編(1985年)
ティターンズが反連邦デモ鎮圧のためにサイド1の30バンチコロニーにG3ガスを投入した「30バンチ事件」の話が出てきて、そのコロニーに行く回がある。その後、エウーゴサイドのサイド2を毒ガスで攻撃、2基の攻撃は防げたが1基は成功してしまうという回がある。ブライトによる、ジオンの再来だというセリフがあり、ジオンの毒ガス攻撃がかつてあったことがうかがえる。
『ガンダム0083』のドラマCD「宇宙の蜉蝣」(1992年)
シーマはブリティッシュ作戦で毒ガスだと知らずに作戦を決行、その後戦犯として追われているという設定が出る。この設定が、ゲームの『Gジェネ』で使われて、よく認識されるようになったのではないか。
OVA『第08MS小隊』(1996年)
主人公シロー・アマダは、「アイランド・イフィッシュ」出身で家族を亡くしたという設定だが、本人の語りのみでOVAの中で映像としては描写されていない。シーマとシロー・アマダの映像はゲーム『ギレンの野望 ジオン独立戦争記』でのムービーカット。
ブリティッシュ作戦(コロニー落とし)のためのアイランド・イフィッシュ占領で、シーマ・ガラハウが自身の使用したガス弾が催眠ガスではなく毒ガスだと気づくこの映像(第08MS小隊のシロー・アマダも出演)は0083の本編映像ではない。
— 名無しの政治将校 (@bandainokairai1) 2025年1月22日
ギレンの野望 ジオン独立戦争記というPS2用戦略SLGのもの https://t.co/1wRbT3iiO1 pic.twitter.com/q29djPdV8t
『THE ORIGIN V 激突 ルウム会戦』(2017年)
ORIGINはあくまで安彦ガンダムの世界であり、公式の宇宙世紀とは繋がらないが、初めてジオンのコロニー毒ガス攻撃が公式の映像で出てきた作品だ。
映像ではあまり触れられないジオンの毒ガス攻撃
こうしてまとめて見ると、ファースト小説版では毒ガスが使われたが、その設定が公式で映像化されるのはORIGNまでなく、『Zガンダム』では毒ガス攻撃はティターンズの非道さとして語られる。『0083』や『第08MS小隊』といったOVAシリーズで、ジオンのコロニーへの毒ガス攻撃という小説での設定があらためてクローズアップされ、ゲームがその設定を広めたといえる。
現在ブリティッシュ作戦でコロニーが一つ落ちたというのが公式の設定になっている。ただ、コロニー落としだけでは、人類の総人口の半数が死んだとする設定にするのは難しい。地球より宇宙の方が人口が多い時代に、地球にコロニー1基が落ちただけでは被害が少ないからだ。となると、やはりコロニーで大量の虐殺が行われたとするしかない。なので、富野氏は当初からコロニーの毒ガス攻撃という設定を作ったが、本編映像でその設定は使われなかった。
※参考
コロニー落としによる被害の変遷
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大量破壊兵器として、ガンダムでは毒ガスがクローズアップされやすいが、当然あの世界には核兵器もある。南極条約は両軍が核兵器を使ってしまった結果、大量破壊兵器の禁止項目ができたとガンダムセンチュリーで記述されており、コロニーの被害も核兵器によるものもあると考えられる。
ジオンがなぜ同じスペースノイドであるコロニーをなぜ攻撃したかという理由に関しては、後付けだが、上のまとめでMS新報という本の中で、連邦に与するコロニーを助ける必要性はない、コロニーが前線基地になるとジオンが勝てないからしょうがないという理由で正当化しているそうだ。それだけであの大量虐殺を正当化するのは無茶過ぎ。
※MS新報で書かれた理由の元ネタは戦略戦術大図鑑からだと思われる
https://x.com/yasen_kyokkou/status/1476365632434507777
※埋め込みがうまくいかなかったのでリンクで
まとめ
冒頭のナレーションでは両軍の戦闘の結果、人口の半数が死んだとされるが、意図的に宇宙にいる民間人を殺さない限り、その結果にはならないと考えると、ジオンが核か毒ガスかはともかく、大量破壊兵器でコロニーを攻撃したと考えざるえない。映像化された作品では、一年戦争や毒ガスや核兵器が多用されたという描写はないが、そう設定しないと無理がある。
どちらにせよ、民間人を核や毒ガスで攻撃したジオン兵が大量にいて、それについて振り返るジオン兵はほとんどいないと考えると、ちょっと異常ではある。おまけに0083のシーマの特別さはなくなってしまうのであった。
富野氏の構想として毒ガス攻撃設定はあったものの、映像では採用されなかった。ガンダムがシリーズとして続き、きちんとした設定を求められるようになった結果、映像では使われなかった小説版の設定がクローズアップされるようになったと考えられる。ナレーションで語る被害が人口の半数と言わなければ、大量毒ガス攻撃の話も小説版の中だけで消えていったのではないだろうか。
ガンダムはシリーズが長く、設定は後付けのものが多いので、追いかけるのが大変であり、「ガンダム民俗学」の成立が求められる。
加野瀬さん提唱のガンダム民俗学概念、もう少し広まってもいいと思う。
— 前島賢(大樹連司):文学フリマ新刊委託中 (@MAEZIMAS) 2017年9月15日
(ガンダムに存在する設定は、誰が最初に言い出し、それがどういう経緯をたどって認知され、公式化していったのか―あるいは非公式化されたのか―という言説史としてガンダムを読み解く視点)
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