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「イラストのお仕事引き受けます」というフレーズ

絵描きのサイトの自己紹介でよく書いあるフレーズなんだけど、まあ、普通は仕事頼まないでしょというレベルの絵の人のサイトでこのフレーズを見つけて、複雑な気持ちになってしまった。この「普通頼まないでしょ」というハードルも人によって違うと思われるだろうが、一番ハードルが低そうなクライアントであっても頼まなさそうなレベルの人が書いていたのだ。
これだけネットで絵の仕事を頼まれるのが普通になってくると、友達の絵描きに絵の仕事がきて…というのは普通の事態になっているだろう。だから、最初に書いたようなレベルの人でもそんなことを書いてしまうという気持ちはよくわかる。専門学校で教えているあるイラストレーターさんが、最近の生徒はすぐプロになれると思っていてびっくりした、という話もあったし。
おそらく、最初に例に出した人は、絵の仕事で食べたい、というより、絵の仕事をして、自分の絵を認めてもらいたいという部分が強いんだと思う。しかし、単に自分の絵を人に認めてもらうだけなら、個人での活動の方がよっぽど楽だ。
昔は、多くの人に絵を見てもらう手段が、商業誌しかなかった。そして、今と違って、漫画ならともかく、漫画やアニメっぽいカラーの一枚絵を発表できる場というのはほとんどなかった。だから、ファンロードを代表とする投稿雑誌はすごく盛り上がったのだ。その後、オフセット印刷が安くなって、同人誌が手軽に出せるようになり、ネットが普及した現在では、カラーイラストを低コストで見せるという印刷では難しかったこともできるようにもなった。
もちろん、商業の仕事の方が多くの人に見てもらえるのは事実だ。しかし、見てくれた人たちから自分の期待するようなリアクションは望めない。濃密なリアクションを望むのなら、同人誌やWebのほうがよっぽど良い。また、仕事では、自分の強みと思っている部分が発揮できるとは限らない。良いクライアントなら、その人の良いところを最大限に活かそうとしてくれるだろうが、大体は単に営業的判断で流行などに左右された指示を出してくる。
あるイラストレーターさんが仕事を始めた初期に自分のカラーと合わない仕事がきて、その仕事が自分のイメージになることを恐れ、結局断ったという話を聞いたことがあるが、大きな露出がその人のパブリックイメージになりやすい。だが、仕事の場合、自分でそのパブリックイメージをコントロールすることは難しい。しかし、今の時代、絵描きは自分の武器を最大限に活用できる個人サイトなり同人誌などがあり、それらを利用して自分で自分をプロデュースすることが簡単にできる時代だ。
また、有効なプロデュース方法も変わってきている。90年代初頭のように、技術力が高い絵に希少価値や商品価値があった時代なら、作家それ単体でプロデュースができた。わかりやすい例は村田蓮爾だろう。装丁の凝った同人誌で、村田蓮爾というブランドを作り上げた。
しかし、今では絵描き全体の技術力の向上により、技術力の高い絵は結構よく見かけるものになり、希少価値はなくなってしまった。その上、現在では技術力の高さは商品価値にあまり寄与しない。寄与するのは、昔のコミッカーズやSなど絵描きや技術力を重視する一部の好事家の間だけだ。個人的には技術力の高い絵は好きだが。
もともと、作家のプロデュースで重要なのはパフォーマンスで、先ほど例に出した村田蓮爾の装丁の凝った同人誌も一つのパフォーマンスである。現在一番有効なパフォーマンスは、読者が今何を見たいかということを意識し、その需要に対してどう応えるかということだ。もともと同人誌でも、流行になっているジャンルの同人誌を出すという行為はてっとりばやく有名になる手段だったが、Webは同人誌よりリアルタイム性の高いパフォーマンスが可能になった。ある作品が話題になっている時期にファンアートを発表したり、その作品をうまくパロディにしたファンアートを発表したり。また、最近は、従来のように作品だけではなく、Webで話題になっているもの(ビスケたんとか)をうまく利用している人も多い。そういう需要の高いものを描けば、Web界隈で面白いものとして、いろいろなサイトが取り上げてくれる。今なら『デスノ』(キーワード対策)のミサなんかは需要が高そうだ。
しかし、これは諸刃の剣で、もともと同人誌というのは絵描きの消費スピードが速い世界だったのだが、Webでの消費スピードはもっと速い。常に話題になるパフォーマンスを続けられなければ、1年後に過去の人扱いという恐ろしい事態だってあるだろう。
とにかく有名になりたい!という人にとっては、こういうパフォーマンス競争は重要だ。しかし、そうでない人がパフォーマンス競争にのっても不幸になるだけ。サイト運営の話でよくいわれるが、長く続けるコツは自分の好きなこと、興味あることしかしないことである。他人の興味ばかりに気を使っても、一時的に有名になれるかもしれないが、その後はきつい事態が待っている。
自分の好きなことが読者の需要と重なっているのなら、商業を目指すのもいいだろうが、そうでない場合は趣味として続けるのが一番いいと思う。その見切りのつけかたが難しいんだけど。